執拗に痛めつけられる主人公【北の夕鶴2/3の殺人】 [書籍にドロップキック!!]
■ヒトコト感想
吉敷が主人公のこのシリーズは、ガチガチのミステリーばかりだが、本作は本格の要素が強い。不可解な事件が発生する序盤。吉敷が満身創痍になり、捜査を続ける中盤。そして、あっと驚くようなとんでもない大掛かりなトリックが待つ終盤。想像を絶する仕掛けで、今までのシリーズとしてアリバイトリックをこねくり回していた印象とは大きく異なっている。現実問題として、実現可能かはおいといて、この強引さは新鮮だ。ボロボロの吉敷が最後にたどりついた結論。もし、吉敷がオマケのごとく交通事故にあったりと、ボロボロの体でなければ、事件としてはあっさりと解決したのかもしれない。そこまでボロボロにする必要があるかと思うほど、執拗に吉敷を痛めつける作者。極限の状況における推理のスリルがある。
■ストーリー
五年ぶりの電話の主は、別れた妻通子だった。ただならぬ気配を漂わせながらも、彼女は「ただ声が聞きたくて」と言うにとどまり、何の説明もしないまま電話を切った。焦燥に駆られ、吉敷はすぐさま上野駅に向かう。そして走り出す〈ゆうづる〉のガラス越しに、窓に両手をあて自分を見つめる通子の姿を見る。
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